ネジ釘を使わない複雑な木組みの技術
中国伝統家具には、ネジ・釘はほとんど使われていません。
前回、中国家具の歴史でも解説した通り、中国家具が発達、完成の域に達したとされるのは、明代。
この頃には、冶金技術が発達し、様々な道具が生み出されるようになっていたため、木組みの技術をはじめとした木工技術が非常に進歩したためです。
ネジ・釘で留めたものに比べると、この木組みを用いた家具の出現で、緩み、歪みなどが抑えられ、家具は非常に堅牢になりました。
また、接合部もいわゆる木の木口(断面)が表に出ないので、仕上がりが美しくもなります。
後にこの中国家具の木組みの技術水準の高さは、西洋にも知られることになり、特に英仏の家具の発展にも影響を与えたほどです。
もちろん、現代においても、現地の家具工房では、部分的には工作機械により、スピードアップしたものの、
製作や補修の行程や構造は、明清の時代のやり方を守っていることが多くあります。(そうでないところも散見されますが・・・)
中国家具の図面からみるその構造
ここでは、中国の伝統的な家具を代表するものとして、「圏椅」を例にとって説明致します。
この手の椅子は、背もたれと肘掛けがひとつの曲線で構成されているのですが、直径1m近くになる大きな半円を一本の木を曲げて作ることは通常しません。もし、一本の棒を曲げて作ると、後から補修が難しくもなります。そこで、通常5つもしくは7つのパートに分けて、材料を用意し、これを互いにかみ合わせた上で、楔によって留めています。

座面は、四方を幅広の枠(かまち)で座面となる板(鏡板)を囲む、額縁のような構造をしています。
また、脚とそれを支える材料との接合は、国内では「剣留ほぞ継ぎ」などと言われるつなぎ方をしています。
後ろ脚は背もたれの支柱も兼ねていて、しかも框(かまち)の結合部分を貫通しているところで、こういう部分は非常に加工が難しいです。

また、中国の椅子、テーブルは、特に脚が長いものが多く、ここもデザインを大きく左右する部分です。
遠目では単純な丸や四角の断面も、よく見ると、溝を彫っていたり、面取りの仕方を工夫して、様々な印象に変化させています。
このように、時代は変わっても、往時の製造工程をきちんと継承している中国家具は、如何に複雑で、また木の特製(膨張収縮など)を押さえた合理的なものであるかが分かると思います。今回は、椅子を例にとりましたが、チェストでもキャビネットでも、また格子(花板)や箱などについても、同じような構造をしています。
店主の一言
中国の家具以上に、日本の家具製造の現場では、もっと緻密で精度の高い、いわば「執念深い加工」をしていることと思います。
ただ、中国の家具(日本以外のアジアと言ってもよい)は、このような高い木工技術がある反面、どこか鷹揚な印象を感じさせてくれる何かがあるように思えます。
たしかに誂えさせた古物に比べ、売り物として作られた近作では、妥協の痕が見えることも、より多くありますが、これも大陸的な細事にこだわらない大らかな考えとして、お付き合いいただくのが、良いのではと思っています。
中国語「だいたい」という意味の言葉で「差不多」というものがあります。現地の家具屋との話では、この「差不多」がたくさん出てきますが、この「だいたい」の差が私や日本のお客様と違うレベルであることもしばしば。仕事の多くは、この差を埋めることでもあります。