中国には、「矮椅」というジャンルの椅子があります。
「矮」とは小さい・背が低いという意味ですので、そのまま小さな椅子ということになり、
本来は、女性やこどもが座るための椅子ということになります。
中国の一般的な古典家具の椅子(圏椅や官帽椅)の座高(平均50~55cm)に対して、座高40~45cmとなっています。それゆえ「矮椅」と呼ばれるワケです。
そして、これらの椅子は、女性やこどもの為であるためか、背もたれに施された彫刻や絵は、その題材になっているものも、穏やかで優しい雰囲気のものが多いように思います。これらの装飾を、じっくり見ていくと、とても興味深いものです。
この椅子に施された彫刻は、最上部に「竜生九子」の一つである”チ”という生き物が向かい合わせにデザインされています。”チ”は、名古屋城で有名な鯱(シャチホコ)の原型とも言われているもので、「ミズチ(蛟)」「龍の子」「龍のメス」などの意味があるようです。
つづいてその下の女性の立ち姿の図案は、人事景物紋の類で、清代に好まれた優雅な宮廷生活を描いたもののようです。背景の花樹と手すり、そして石畳の上で、壺か酒器を手にした女性は、着衣の裾も長く、優美な印象を受けます。
この他にも、これまでに仕入れた矮椅には、鹿の骨を象嵌したものや、詩が刻まれたもの、お花の浮彫がされたものなど、実に色々なものがあります。
当時の役人(男性)が使っていた椅子は、いかめしく、大きなものが多い(特に清代のものは、装飾もかなりゴージャス)ですが、今回の椅子などは、サイズも小さく、使い易い上、装飾も可愛らしいものが多く、遊び心があるように思います。
こうして、用途以外の目線で見てみると、色々なことに気づき、楽しいものです。座るだけの椅子よりも、こうしたストーリーがあり、そして飾ってもよしという椅子があると、とても素敵なものです。それが、絵柄にあるような宮廷でなくとも・・・